チェーン? スタッドレスタイヤ? 冬を楽しむためにも済ませたい、タイヤの冬支度

クリスマスやお正月、温泉にスキーと、冬は楽しみなイベントが盛りだくさん。
でも、ちょっと待ってください。クルマの「冬対策」はお済みですか?

特に雪がほとんど降らない地域では、「お金もかかるし、わざわざ対策しなくても……」と考えてしまいがち。ですが冬の道路では、雪のほかにも「路面凍結」の危険があるため、雪が降らないからといって安心はできません。

今回は冬の安全対策について、キホンのキからお伝えします。

冬のレジャーも楽しみだな〜。

雪道をノーマルタイヤで走るとどうなるの?

そもそもどうして、雪道や凍結路をノーマルタイヤのまま走ってはいけないのでしょうか。

クルマにとって一番大切な性能は、「走る」「曲がる」「止まる」の三つ。雪道や凍結路を走ると、これらの性能すべてが大きく損なわれてしまうのです。

「走れない」――前に進めず立ち往生

突然ですが、自転車に乗っているとき、一番「こぐ力」が必要な瞬間はいつでしょう?

「発進」や「上り坂」が思い浮かぶのではないでしょうか。 クルマの場合にも、基本的には同じことが言えます。普段は難なくこなせる発進や登坂も、路面が滑りやすくなっていると、必要な力が地面に伝わらなくなってしまいます。

その結果、「道路のど真ん中」で身動きが取れなくなってしまう可能性も。一度立ち往生してしまうと、ロードサービスなどの助けが来るまで、寒さに凍えながら待たなければいけない状況も考えられます。

さらにそのとき、エンジンをつけっぱなしの状態で車内に長時間こもっていると、一酸化炭素中毒に陥るおそれも。冬の運転は事故以外にも「命の危険」につながるケースがあるため、十分な対策が必要なんです。

「止まれない」――ブレーキが利かずに追突事故

クルマのブレーキが利かずに追突……という悪夢に、ハッと目を覚ました経験はありませんか? ノーマルタイヤで雪道や凍結路を走ると、その夢が現実になってしまう危険があります。

実際に、雪道での制動距離(ブレーキを踏んでからクルマが停止するまでの距離)はどのくらい伸びるのでしょう。JAFの調査によれば、時速40kmから停止する場合、ノーマルタイヤはなんとスタッドレスタイヤの「1.7倍」もの距離が必要になるというのです。

身近なもので表すと、ノーマルタイヤで伸びる制動距離はおよそ「クルマ3台分」。一般的に、停車時の適切な車間距離は「クルマ1台分」程度なので、いつもの感覚でブレーキを踏めば、そのまま前のクルマに追突してしまうでしょう。

さらに、ブレーキは交差点やカーブを曲がるときにも大切な役割を担うもの。ブレーキが思うように利かないと、スピードを落としきれずにガードレールに突っ込んだり、対向車線に放り出されたりと、大事故につながる可能性もあります。

「曲がれない」――ハンドルがとられて操作できない

道路に雪が積もると、クルマが通ったあとの轍(わだち)などにより、路面に凹凸が生じます。こうした状況では、まっすぐ進んでいるだけでも危険がいっぱい。起伏を乗り越えるときにグリップ(タイヤが地面に食いつく力)が失われ、あらぬ方向にハンドルがとられてしまいます。

カーブを曲がるときはなおのこと危険。クルマの重心が傾いた状態で、起伏にズルッと足をとられたら……コントロールを失ったクルマの「まさかの動き」に、パニックに陥ってしまうドライバーは多いかもしれません。

そもそも「ノーマルタイヤで雪道」は法律違反

実は、沖縄県以外の都道府県では、ノーマルタイヤのまま雪道や凍結路を走ることは「法律違反」にあたります。

各都道府県での交通ルールを定める「都道府県道路交通法施行細則」や「道路交通規則」では、積雪時・凍結時の「すべり止め措置」を講じる義務が定められています。これに違反した場合には、普通車の場合で6000円の反則金が課される決まりです。

つまり、安全運転の面でも法制面でも、スタッドレスタイヤやチェーンによる対策は必須。「どうにかなるだろう」と、未対策のまま雪道や凍結路を走るのは絶対に避けましょう。

スタッドレスタイヤとチェーン、どっちを選ぶべき?

雪道への備えといえば、「スタッドレスタイヤ」と「タイヤチェーン」です。しかし実際のところ、「どちらを選べばいいのかわからない」というドライバーも多いのでは?

もちろん万全を期すのであれば、「スタッドレスタイヤを装着したうえで、チェーンも常備しておく」ことが理想的。でも、豪雪地帯に何度も行くわけでもない限り、両方の対策が必要なケースは稀かもしれません。

どちらか一方を選ぶには、それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、自分自身の使用環境に合わせたものを選択することが大切です。

スタッドレスタイヤのメリット・デメリット

スタッドレスタイヤのメリットは、なんといっても「突然の雪でもそのまま乗れる」という点。旅行先で予報はずれの雪に見舞われたり、予期せぬ形で凍結路にさしかかったりした場合にも、チェーンのように作業する必要がありません。

さらに、チェーンに比べてタイヤや道路を傷つけにくいのも◎。「普段の道の延長」として、雪道や凍結路に対応できるのが強みですね。

一方で、やはり気になるのはコスト面。チェーンよりも高額なことはもちろん、シーズンごとに履き替え作業が必要になるため、お店に頼む場合には毎回工賃がかかります。

加えて、タイヤを保管しておくスペースの問題も。自宅での保管が難しければ、カーショップなどのタイヤ保管サービスを有償で利用することになるでしょう。

スキーなどを趣味としている場合は特に、「スタッドレスタイヤでも進めない道がある」という点には注意しておきたいところ。たとえば大雪などで「チェーン規制」が出た場合には、仮にスタッドレスタイヤを履いていたとしても、チェーンなしでの走行はNGです。

また、スタッドレスタイヤは雨の日が少し苦手。濡れた路面ではノーマルタイヤよりも制動距離が伸びてしまうため、「雨の日には止まりにくくなる」ことを念頭に置いておきましょう。

スタッドレスタイヤはこんなユーザーにオススメ

  • 橋やトンネル、山道など凍結しやすい道を走る機会がある
  • 突然雪が降っても予定を崩さず出かけたい
  • 出先の路面状況を細かく気にせず走りたい
  • コストや保管スペースが気にならない
  • タイヤのサイズが小さく、チェーンとあまりコストの差がない

チェーンのメリット・デメリット

スタッドレスタイヤと比べた場合、チェーンのメリットはやはり「コスト」と「スペース」でしょう。

製品によってはスタッドレスタイヤ1本分程度の値段で購入できるものもあり、「ほとんど雪が降らないのに高いお金を払うのは……」とためらうドライバーにもオススメです。

さらに、チェーンは地面に食いつく力が強く、チェーン規制が敷かれるような大雪に対応できるのもポイント。つまり、「トランクに積んでおけば万が一の備えになる」のがチェーンの大きな特徴ですね。

一方で、デメリットはやはり装着に手間がかかること。雪道や凍結路にさしかかるたび、寒い中で装着作業をするのは骨が折れるでしょう。取り付け時には、安全なスペースを確保する必要もあります。

ちなみに、通常のアスファルト路面でチェーンを装着したまま走ると、走行性能が落ちたり、車体や道路、チェーン自体にもダメージが生じたりといった影響が。そのためチェーンは「雪道を走るたびに装着する」のが基本です。

このように、チェーンはどうしても「取り付け作業」がネックになりますが、中でも懸念すべきは「取り付けミス」のリスクです。

イレギュラーな環境で、慣れない作業をするとなると、「思わぬ見落とし」をしてしまうこともあるでしょう。チェーンがきちんと装着されていないと、緩みや切断、脱落といったトラブルにつながることもあります。

つまりチェーンは「積んでおくだけで安心」というものではなく、「どんな状況でも正しく取り付けられるノウハウ」が必要なツールなのです。

チェーンはこんなユーザーにおすすめ

  • 雪道も凍結路もほとんど走らないが、万が一の状況に備えたい
  • スキー場などチェーン規制が敷かれやすい場所に出かけることが多い
  • 装着作業が苦にならない

スタッドレスタイヤやチェーンを購入・装着するときの注意点

スタッドレスタイヤやチェーンは、しっかりと性質を理解し、自分のクルマに合ったものを選ぶことが何より大切。万が一クルマに合わないものを選んでしまうと、効果を発揮できないばかりか、重大な危険につながる可能性もあります。

自分のクルマとのマッチングに注意

タイヤの購入時には、まず「サイズ」をしっかり確認することが重要です。特にスタッドレスタイヤを「ホイールとセット」で購入するときは、ホイールの規格もあわせてチェックしなければいけません。

確認を疎かにすると、「タイヤのサイズが同じでも、ホイールの規格が合わずに取り付けられない」といったケースも考えられます。「どこをチェックしていいかわからない」という人は、必ずディーラーや専門店に確認をとりましょう。

次にチェーンの場合には、タイヤサイズのほか「タイヤハウスのクリアランス」にも気をつけましょう。クリアランスとは、タイヤと車体の間にある「隙間」のこと。チェーンを装着すると、タイヤの外径が大きくなるため、ハンドルを切ったときなどに車体に干渉し、走行に支障をきたす可能性があるのです。

必要なクリアランスは製品によって異なりますので、購入時には必ず製品ごとの仕様を確認しておきましょう。

チェーンは必ず装着の練習を

一口にタイヤチェーンといっても、取り付け方法は製品によって様々。手順をしっかり把握しておかないと、寒い中で作業に多くの時間を費やすことになりかねません。

さらに、不適切な取り付け方法は走行中のチェーン切断や脱落にもつながり、最悪の場合「大雪のなかで動けなくなる」おそれも。こうした事態に陥らないよう、事前にしっかりと装着の練習を繰り返しておきたいところです。

チェーン装着は早めのタイミングで

チェーン装着のタイミングは、なかなか見極めが難しいもの。ただ、高速道路や指定国道の一部であれば、チェーン装着のタイミングは道路標識や標示で案内されるので、基本的にはそれに従うようにしましょう。

一方で、その他の一般道では自分自身でタイミングを見極めなければいけません。このとき注意したいのが、「雪が降っていなくても、気温が低ければ路面凍結の可能性がある」ということ。思わぬ凍結に足をとられることのないよう、ノーマルタイヤで走っている場合には、特に外気温計を見ながら「早めの装着」を心がけましょう。

また、装着タイミングを知るうえで欠かせないのが「下調べ」です。出先の天気予報はもちろん、エリアごとの路面情報もチェックするなど、あらかじめ危険なポイントを把握しておきたいですね。

対策していても油断は禁物

ここまで雪道対策について紹介してきましたが、最後に忘れないでほしいポイントをひとつ。

スタッドレスタイヤやチェーンは、スリップを防ぐうえで有効な対策ですが、「装着すれば滑らない」というわけではありません。これらの対策をしていても、無理な動きをしてしまえば、クルマは簡単にスリップしてしまいます。

雪道や凍結路を走るときには、タイヤやクルマの性能に慢心せず、急発進・急ブレーキ・急ハンドルを避けることが大切。余裕のある運転で、冬のドライブを安心して楽しんでいきましょう。

  • Writing: 鹿間羊市

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