「高齢の親に運転を止めさせたい」家族のための免許返納マニュアル

最近、「運転免許の自主返納」について、ニュースなどでも取り上げられることが多くなってきました。

「自分の両親や祖父母も、今は運転に問題がなくても、いつか免許を返納しなければいけない時がくるかもしれない」と、不安に思っている人もいるのではないでしょうか。私のまわりでも「最近、両親や祖父母の運転を見ているとヒヤッとする」という理由で、家族の免許返納を考える人たちが増えています。

これからさらに高齢化が進む中で、より身近な話題になるだろう「免許の返納」。今回は「免許返納ってどうすればいいの?」「詳しい手続きの方法は?」「免許返納することで何かメリットはある?」など、よくある疑問にお答えしたいと思います!

超高齢社会では切実な問題ね。

免許返納はどこで可能? 年齢制限はある?

まずは、運転免許の自主返納の方法から見ていきましょう。免許返納するために、特に年齢制限はありません。運転免許が不要になったり、加齢に伴って自身の運転に不安を感じるようになった人は、誰でも自主的に運転免許を返納できます。

返納できる場所は、警察署や免許センターです。運転免許を所有している本人以外でも、委任状があれば代理で申請することも可能です(代理人の要件は要確認)。

返納時に必要なものは、本人が直接申請する場合は、基本的には運転免許証と印鑑(不要の自治体もあり)のみでOK。代理人が申請する場合は、返納する免許証と代理人の住所・氏名・生年月日が確認できる書類、印鑑、委任状などが必要となります。また、運転免許を返納するだけであれば特に費用も発生しません。

運転免許の代わりになる身分証明書「運転経歴証明書」

本人確認書類として使うことも多い運転免許証。実は返納しても、代わりに公的な本人確認書類として使える「運転経歴証明書」をもらうこともできます。

運転経歴証明書/画像は警察庁の公式サイトより
運転経歴証明書/画像は警察庁の公式サイトより

「運転経歴証明書」の交付には1100円の手数料が必要です。ただし、自主返納して5年以上経ってしまった場合は、交付を受けられません。

また、さらに、免許を返納した際に「自主返納カード」というカードをもらえる自治体もあります。こちらは本人確認書類としては使用できませんが、免許を自主返納した際の特典を受けられます。

免許返納のメリットは? お金はもらえる?

気になるのは、「免許を返納したら何か特典が受けられるの?」ということ。

よく「給付金がもらえる」と思っている人もいるようですが、住んでいる自治体によって受けられる特典は変わってきます。基本的に、現金をそのまま受け取れるような地域は少なく、自動車を運転できなくなる代わりに、交通手段のサポートをするような特典などが多いようです。

たとえば、タクシーが割引になったり、バスの回数券がもらえたりする自治体もあります。そのほかにも、交通手段のサポートだけではなく、「運転経歴証明書」や「自主返納カード」の提示によって、飲食店での料金が割引になったり、自動車を売却する時に特典を受けられたりします。さらには人間ドッグが安く受診できるなどの特典も!

ただ、注意が必要なのは、特典を受けられる年齢が自治体によって変わってくるところ。早いところでは65歳以上から、高齢者マーク装着が推奨される70歳以上から、高齢者マーク装着が義務とされる75歳以上から、という区切りで実施している自治体が多いようです。お住まいの市町村や警察署の公式サイトを一度確認してみてください。

免許返納しない理由「まだ普通に運転できるから」「車がないと生活が不便」

「自分の両親や祖父母に運転免許を返納してもらいたいけど、なんと声をかければいいか分からない」「家族は運転が不安に感じていても、本人はまだ運転できると思っている」というケースもあるのではないでしょうか。

警察庁による2005年の調査(外部リンク)によれば、免許を自主返納しない理由は、「まだ普通に運転できるから」がダントツのトップ。2015年の調査(外部リンク)では、自主返納をしようと思ったことのある高齢ドライバーが、ためらっている理由として「車がないと生活が不便なこと」が1位に挙げられていました。

そういった背景もあり、本人に自主返納について相談してみても、なかなか受け入れてもらえないというケースもあるようです。

警察庁の統計調査/画像は警察庁の公式サイトより
警察庁の統計調査/画像は警察庁の公式サイトより

実際、警察庁の統計調査によれば、池袋暴走事故が起きた2019年をピークに、運転免許の自主返納件数は年々減少。2023年は、約38万人(75歳未満が12万人、75歳以上が26万人)でした。

一方、国立長寿医療研究センターの調査(外部リンク)によると、運転を中止した高齢者は、要介護状態になったり認知症を発症したりするリスクが高くなることも報告されています。

とはいえ、事故を起こしてしまってからでは遅いというのも事実。まずは、高齢者向けの運転講習に、家族が同行してみるところからはじめるのはどうでしょうか

70歳以上のドライバーが受けなければならない「高齢者講習」

70歳以上で免許を更新する際には、必ず高齢者講習を受けなければいけません。講習の内容は「座学」「運転適性検査」「実車指導」があり、普通自動車対応免許を更新する方は3つとも受ける必要があります。

この高齢者講習に合否はなく、受講すれば免許の更新は可能になります。しかし、家族が同行して客観的に危険なポイントはないか見てあげて、もし不安があるような場合は、その際に自主返納を一緒に考える……なんてこともできると思います。

また、75歳以上の免許更新の際には「認知機能検査」も必要です。イラストを見て覚えたり、現在の日時を答えたりして、記憶力や判断力を測定します。この検査に問題があれば、医師による認知症の検査を受けなければならず、認知症と判断された際には免許取消しとなることもあります。また、更新までに違反などの経歴がある人は、運転技能講習が必要になる場合があります。

教習所では高齢者向けの「運転免許取得者等教育」も実施

自動車教習所で行われている「運転免許取得者等教育」を、一緒に受けてみるのもいいかもしれません。自動車教習所では、免許取得後にも運転を学び直す機会を与えてくれる講習がいくつか用意されています。免許取得後、なかなか運転できていない方へ向けたペーパードライバー講習などのほかにも、高齢者向けの講習も増えています。

受講すれば、免許更新の際に高齢者講習が免除される(受講から6ヶ月以内)しっかりとした「高齢者講習同等教育課程」という講習もあれば、本人の運転に対する反応時間、視力の低下などについて理解してもらい、ゆとりのある安全運転を学び直すことのできる「高齢運転者教育課程」という講習もあります。

この「高齢運転者教育課程」は、2時間程度で受講できますし、高齢者講習では行わない危険予測や急ブレーキ、危険回避なども実際に練習できます。

免許更新の前に家族で教習所へ行き、このような講習を受けた上で、本人と自主返納の相談をするのもいいかもしれません。

まずは家族で話し合ってみよう

これから確実に増えてくるであろう免許返納にまつわる問題。免許を返納することは、運転ができなくなるデメリットだけではなく、本人や家族の安全が守られたり、さらには自治体によって様々な特典を受けるメリットも多いということを知ってもらえればと思います。

とにかく事故を起こしてしまってからでは遅いので、少しでも家族や自分の運転に不安を感じるようになったら、まずは話し合ってみることが大切です。

ぜひ今回の記事を参考にして、免許の自主返納について考えてみていただけたら幸いです。

関連リンク

運転免許証の自主返納について|警察庁: https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/jishuhennou.html

安全運転相談窓口について|警察庁: https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/conferennce_out_line.html

高齢者運転支援サイト: https://www.zensiren.or.jp/kourei/

高齢者運転免許自主返納サポート協議会加盟企業・団体の特典一覧|警察庁: https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/koreisha/shomeisho/support.html

  • 伊藤梓

大切なのは、本人の身を案じていることを優しく伝えることだよ!

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